MIYAZAKI STORIES

緒方 廣秋

自然の恵みを待つ。
緒方マンゴー園の独立独歩

Hiroaki i Ogata

緒方 廣秋

緒方果樹園 代表

http://mango-ogata.jp/

板金業を長年営み、息子たちへの事業継承を機に63歳で未経験からマンゴー栽培の世界へ転身。宮崎県において、自然の摂理に逆らわない「完熟落果」方式にこだわり、20年以上にわたり高品質なマンゴーを追求。
独自の直販スタイルを確立し全国に多くのリピーターを持つ。現在83歳、今なお現役でハウスに立つ。

自然の摂理に委ねる「完熟落果」の美学

自然の摂理に委ねる「完熟落果」の美学

Q:こちらのマンゴーがどのように育てられているのか教えていただけますか。
A:マンゴーがどうやって実をつけて、どう収穫されるのかを知っている人は実は地元の方でも意外と少ないんです。一つひとつの実をネットで包んで枝から吊るしています。マンゴーというのは本当に美味しく熟すと自ら根元からポトンと落ちるんです。私たちはその「落ちる瞬間」を待つのが仕事です。

 

Q:「待つ」のが収穫ということでしょうか。
A:ネットを張っているのは地面に落ちて傷がつくのを防ぐため。もしネットがなくて地面に叩きつけられたら、もう商品にはなりませんから。こちらで無理にハサミを入れて収穫するのではなくマンゴーが「自分はもう十分に熟したよ」と教えてくれるのを待つ。これが本当の完熟なんです。

 

Q:収穫のタイミングは、大きさなどで決まるのですか。
A:実は小さいものから順に熟していくことが多いですね。大きな実ほど完熟するまでに時間がかかります。色味の変化を見れば、そろそろ落ちそうだな、というのが分かります。収穫は毎朝ハウスを回ってネットの中に落ちている実を回収します。真夏の最盛期になれば朝だけでなく夕方にも収穫作業を行います。それくらいマンゴーの成長は早いんです。

「完全直販」という誇り

Q:緒方マンゴー園の最大の特徴、あるいは強みはどのような点にあるとお考えですか。
A:多くの農家さんはJAに加盟し、その指導の下で栽培して出荷するのが一般的です。出荷の際はスポンジに詰めて箱に入れて渡せばあとはJAが販売してくれます。しかし、うちはあえてコラボレーションしていません。決して否定しているわけではなく、すべて自分たちで収穫し自分たちでパッキングして自分たちでお客さまに直接販売しています。

 

Q:あえて困難な道を選んでいるようにも聞こえますが、なぜそのスタイルを選んだのでしょう。
A:一貫して自分たちでやることで、納得のいく品質をお客さまに届けたいからです。うちは農園に直接買いに来てくださる方か昔からのリピーターの方がほとんどです。自分の手でお客さまに手渡し、あるいは発送する。この「顔の見える関係」こそが強みだと思っています。収穫したばかりの最高の状態を自分の責任でお届けする。それが他にはない緒方マンゴー園のスタイルですね。

 

Q:自分で作ったものを自分で売る。シンプルなようでいて覚悟が必要なことですね。
A:マンゴーは女性に特に人気がありますが一度気に入ってくださった方は毎年シーズンになると「今年も送ってほしい」と連絡をくださいます。そうしたリピーターの方々に支えられて20年続けてこられました。自分が納得したものだけを売る、その自由さと責任感が、独立独歩の経営にはありますね。

63歳からの挑戦。板金職人がマンゴー農家へ

Q:緒方さんは今年で83歳になられると伺いました。この場所でマンゴー栽培を始められて20年。そもそも、なぜこの仕事を始めようと思われたのですか。
A:以前は「板金屋」をしていたんです。屋根を葺いたりする仕事です。その仕事を息子たちが継いでくれたので63歳の時に「さて、これから何をしようか」と考えました。私はもともといつかは「農家」になりたいという夢があったんです。それで妻に相談したところ「マンゴーを作ってほしい」と言われまして。それがきっかけです。

 

Q:板金職人からマンゴー農家へ。全くの未経験からどのように技術を習得されたのでしょうか。
A:幸運なことに素晴らしい師匠に巡り会うことができたんです。その方が一から丁寧に指導してくださり今でもアドバイスをいただいています。もしあの師匠がいらっしゃらなければうちはとっくに倒産していたでしょうね。職人の世界と同じで技術を覚えるまでは苦労もありましたが、もともと「お百姓さんになりたい」という想いがありましたから苦ではありませんでした。

 

Q:ご自身で作られたマンゴー、やはり毎日召し上がるのですか。
A:それが不思議なもので自分で作るようになるとあまり食べたくなくなるんですよ(笑)シーズン中に食べるのは2個くらいでしょうか。妻やスタッフは味見を兼ねて食べていますけどね。私はマンゴーがネットに落ちているのを見る、その瞬間に一番の喜びを感じるんです。こうしてやりたいことをやれている人生は、本当に楽しいですよ。

浅く広く、多様な経験を糧に

1本の道、1つの仕事を突き詰めるのも大切ですが今の若い方には「浅く広く」いろんな経験をしてほしい。一つの場所で仕事の基礎を覚えたら、また別の場所で新しいことを学ぶ。そうして得た多様な経験は年齢を重ねた時に必ず自分を助けてくれる「潰し」のきく力になります。かつては「一つの道を極めろ」と言われた時代でしたが
寄り道こそが人生を豊かにし新しい挑戦を支える土台になると私は信じています。

浅く広く、多様な経験を糧に