MIYAZAKI STORIES

打上 郁美

薬剤師が向き合う、
生と死、そして「今」の幸福

Ikumi Uchiage

打上 郁美

株式会社mindfulness 代表取締役

https://www.hasu-pharmacy.com/

2006年神戸学院大学薬学部卒業後、製薬会社や病院等での勤務を経て、2020年に宮崎県で在宅医療特化型の「蓮薬局」を創業 。24時間365日体制で終末期ケア等を支える地域インフラの構築に注力 。スタッフの幸福追求を最優先する経営哲学を掲げ、自身も趣味のサーフィンを通じ宮崎の風土を愛する移住者の一人である 。

在宅医療に特化した「24時間365日」の体制が
地域の安心を支える

Q:株式会社mindfulnessが運営する「蓮薬局」の事業内容と、その特徴について教えてください。

A: 私たちは宮崎県内で在宅医療に特化した調剤薬局を展開しています 。一般的な薬局は病院やクリニックの隣に位置することが多いですが、私たちの薬局は独立して立地しており薬剤師が患者様のご自宅や介護施設へ直接お薬を届け、服薬管理やサポートを行う「訪問」が主軸です 。最大の特徴は、24時間365日、いつでも対応できる体制を整えている点です 。特に末期癌や終末期の患者様を受け入れており、医療用麻薬の持続点滴が必要な方など、高度な管理が求められるケースにも対応しています 。私たちが目指しているのは、地域の医療機関やケアマネジャーの方々が「蓮薬局ならどんな時でも受け入れてくれる」と感じていただけるような、安心のインフラになることです 。

 

Q:「24時間365日」の対応は非常にハードな印象がありますが、組織としてどのように維持されているのでしょうか。

A: 確かにおっしゃる通りですが、これを属人的な犠牲で成立させるのではなく、組織としてシステム化することに注力してきました 。私たちは自社でシステムを作り込み、事務作業を徹底的に簡略化する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しています。
これにより、薬剤師が本来の業務である「患者様と向き合う時間」に集中できる環境を作っています。現在15名のスタッフがいますが、この効率化によって、迅速かつ質の高いサービスを継続できています。

祖母の死で見つめた
「薬剤師として、最期に寄り添う」という決意

Q:なぜ、そこまで在宅医療、特に終末期のケアに強くこだわられるのでしょうか

A:原点にあるのは、祖母の死です。私が既に薬剤師として働いていた頃、祖母が癌になり、わずか1ヶ月ほどで亡くなってしまいました。その時、薬剤師でありながら何もできず、病院で最期を迎える祖母をただ見守ることしかできなかった。自分を支えてくれた大切な家族に対し、十分なサポートができなかったという無力感と後悔が今も心に深く刻まれています。あの時在宅医療が十分に機能していれば、祖母の終末期の選択肢も増えたのではないかと思います。

その後、業界全体で在宅医療への注目が高まる中で、「自分がやりたかったのはこれだ」という確信に変わりました。しかし、当時の現場は個人の頑張りに依存しており体制が不十分で患者様を最後まで受け入れられない薬局も少なくありませんでした 。それならばどんな患者様でも断らず最期まで寄り添える専門の組織を自分で作ろうと決意したのが創業のきっかけです 。

 

Q:社名の「mindfulness(マインドフルネス)」や「蓮薬局」という名前にはどのような想いが込められていますか。

A: 「蓮」は私が学生時代にフランスでクロード・モネの『水』を観て以来ずっと大切にしているモチーフです。クロード・モネは刻一刻と変化する水底の世界、水面そのものの世界、水面に写る空の世界を描きたかったそうです。私たちは薬を通して患者様と向き合いますが、薬という見えるものだけでなく、患者様との関わりの中で見るもの、聞くもの、触れるもの、感じるものを大切に、月日の経過とともに変化する患者様に寄り添える薬局を目指しています。

また「マインドフルネス」という言葉には「今、この瞬間」に集中するという意味があります。終末期の患者様と向き合う中で死を意識することは、いかに「今」を生きるかを考えることだと教わりました。未来の不安や過去の後悔に囚われるのではなく患者様にとっても、そして私たちスタッフにとっても「今この瞬間」を大切にしたいという願いを込めています。

スタッフの幸福が、質の高い医療サービスを生む循環

Q:打上代表が経営において最も大切にされている価値観について教えてください。

A: 私たちが掲げる行動指針の一つに「自らの幸福の追求を最優先とする」という項目があります 。これは医療機関としては少し意外に思われるかもしれませんが私はスタッフ自身が満たされ幸福でなければ患者様に本当の「安心」をお届けすることはできないと考えています 。人生には様々なステージがあり、家族との時間やプライベートを優先したい時期もあります。週に数時間だけ働くパートの方もいれば、全力でキャリアを積みたい方もいます。それぞれの価値観を尊重し、スタッフが自分の人生をコントロールできるように会社として最大限サポートしたいと取り組んでいます。それが結果として、患者様への迅速かつ温かい対応につながるという良い循環を生んでいます 。

 

Q:今後どのようなビジョンを描かれていますか。

A: 創業から6年が経過し現在は組織としても安定期に入ってきました 。今後は自社を成長させるだけでなく、この「在宅医療特化型」のモデルを地域全体のインフラとして定着させていきたいと考えています 。宮崎県全域でどんな患者様でも自宅で安心して最期を迎えられるような体制の底上げに貢献していくことが私たちの次の使命です 。
また、私自身もアートに触れたり趣味の旅やサーフィンを楽しんだりすることで柔軟な感性を持ち続けたいと思っています 。科学的根拠に基づく医療の正確さと多様な解釈ができる豊かな「人きる」というアート。その両面を大切にしながらこれからも一人ひとりの患者様に誠実に向き合っていきたいですね。

未来や過去に惑わされず、目の前の「今」を生きる

これからの時代を担う皆さんに伝えたいのは「未来の不安や過去の後悔に心を奪われすぎないでほしい」ということです。世の中のスピードが速く正解のない不確かな時代だからこそ、変えられないことに悩むのではなく自分が変えられる「今、この瞬間」の行動に集中してください。目の前のことに心を込めて向き合い自分自身の幸福を大切にすること。その積み重ねが結果として豊かな人生を作っていくのだと信じています。

未来や過去に惑わされず、目の前の「今」を生きる